A Window on Fukushima――「3.11以降」の音を聴く

ご無沙汰にご無沙汰を重ね、ついに広告が出てしまっておりました…スミマセン。

そんな私は、昼の震災対策室のしみず(おや)です。こんな状況を見かね、夜の震災対策室準メンバー(?)の高橋準さんが、ブログ記事を寄稿してくださいました。約1か月前に、東北地方太平洋沖地震から2年が経過したわけですが、その際に行われた企画「A Window on Fukushima――「3.11以降」の音を聴く」についてのインタビュー記事です。

同企画の主催者は、本ブログでもおなじみの永幡さん(永幡さんについての詳細は本文をご覧ください。本ブログの記事では、震災直後に寄稿していただいたこちらが非常に印象的でしたね)。

ではでは、準さん、よろしくお願いします♪

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A Window on Fukushima。3.11以降の福島で採った音をモチーフに、国内外のアーチストたちが作成した作品を、インターネットを介して、2013年3月11日に日仏の会場で共有しようというもの。
企画したのは、永幡幸司さん。元行政社会学部教員、現在は共生システム理工学類所属。専門はサウンドスケープ論です。
3月11日、企画開始直前の永幡さんにインタビューして、この企画をたてるに至った経緯、目指すもの、現在の福島の状況などについてうかがいました。(高橋)

インタビューをしたのは、会場となっているふくしまキッチンガーデン2階。1階には「かーちゃんの力・プロジェクト」のお店、「かーちゃんふるさと農園わぃわぃ」が入っています。
最初訪ねたとき、永幡さんは不在。「かープロ」関係者にうかがったところ、「街なか広場に録音をしに出ていらっしゃいますよ」とのこと。こんな日にも、音を集めることにはぬかりがありません。
3時半近くになって戻ってきた永幡さんをつかまえて、インタビュー開始。

――この企画を思いついたきっかけは。
永幡「3.11から後、アーチストっぽい活動もしてるんですよ。ドイツで開催されたサウンドスケープ関連の学会に行ったときに、福島のサウンドスケープを紹介するDVDを作って持っていったら、けっこうみんな注目してくれました。静止画と音声で作成したんですが、一つ作るのに1週間かかってしまいました。最新バージョンをWebにおいてあります。
関心を持ってくれる人も増えました。去年福島を訪ねてきてくれた、ドミニクというフランス人がいて、彼がフランスのアートセンターに、この音の企画を持ち込んだんです。それで、どうせなら、フランスと福島で一緒の時間帯にやろうと。」
――ドミニクさんというのは。
永幡「40代半ばぐらいかな。大学で講師をしてるらしいんですが、実はよく知らなくて、文芸批評やラジオ番組の制作などもやってるみたいです。でもとにかく音には貪欲なひとで、去年5月にうちの研究室に来たときも、ずっとレコーダをまわしっぱなしなんですよ。おたがいあんまり上手じゃない英語で話をしていたんですが、ずっと録音してる。後から聴くと、けっこうそれも面白いんです。」
――「音」のつながりなんですね。永幡さんは、本業も音響学やサウンドスケープ論ですが、そこにこだわりたいと。
永幡「自分の得意なやり方ですから。「今の福島はこうなんだ」ということを伝えたかった。写真だと、カメラを向けた一方向だけしか切り取れないけど、音は360度から聞こえるわけです。根本的に違うものだと考えています。ただし、作品を作るのは本職ではないので、「えせアーチスト」と名乗っています。「えせ」なので、時間もかかってしまうんです。出来不出来の波もあります。」

話をこのあたりまでしたところで、いきなり永幡さんが、「デモが来た!」と叫んで、部屋を飛び出しました。あわてて後を追うと、反原発のデモ行進がやってくるところでした。これも3.11の音風景(サウンドスケープ)の構成要素。さっそく録音の準備を永幡さんは始めます。

録音している日時や状況をマイクに吹き込む永幡さん。
そうこうしているうちにデモ隊がやってきます。
道をはさんで彼とわたしがいる反対側には、どこかの国の旗を持った人たちが数名固まっていました。

デモ隊はかなりの規模でした。通過するとき、上の写真の人たちは「出ていけー!」と怒鳴りながら隊列に詰め寄ろうとして、警官に制止されていました。
そんなやりとりも、マイクは拾っていたでしょう。

永幡さんも「基本的には原発には反対」だというのですが、デモ隊が通り過ぎて録音が終わったあとで、「音がぜんぜん洗練されていませんね。」とひとこと。やはりそこが気になるようです。「人に、無理やり聞かせる訳じゃないですか。もっと考えないと。」

会場に戻って、インタビュー再開。

――いろんな方が参加されています。
永幡「2011年3月以来録りためた音は、かなり前から提供して、作品を作ってもらっていたんです。なので、半分ぐらいは、既存の作品ですね。日本人アーチストも4人かな。あとは、アメリカ、フランスなどです。清水靖晃さん(サックス奏者)も作品を寄せてくれました。やはり知っているアーチストが参加してくれるとうれしいですね。」
――苦労なさったことはなんでしょう。
永幡「企画自体は、楽しくて、たいへんなことはなかったんですけど、素材集めは、楽ではなかったですね。たとえば、「小鳥の森」(福島市)での録音。森の中は線量が高いところじゃないですか。そこに自分から進んで入っていかなくてはならないわけで、長時間ではないので、それほど悪影響はないと分かってはいるんですけど、やはり気分はよくないです。
放射線については、慎重な人もそうでない人も、病気になるかならないかでしか語らない。しかしWHOの「健康」の定義は、「病気ではないこと」ではないんです。気分が悪い、というのは、よくないことなのではないかと思っています。」
――実はここへ来る前に、Podcastでひととおり聴いて来ました。あえて会場で音を流すことの意味はなんでしょう。
永幡「ええ、iTunesなどで自由に聴けるようになっています。(註:現在は別な音が流れるようです。)最初ドミニクは、リアルタイム配信にこだわっていたんですが、方針が変わったのかな。
なぜ集まってみんなで聴くのか、というと、それは一緒に聴いて、感想を共有することにも意味があるからです。だから黙って聞いていることはなくて、あまり大きな声でなければ、意見交換をしながら聴いてほしいと思っています。」

――イヤフォンで聴くのと、会場で聴くのとは、また違いますね。さっきテストの時に聴かせていただきましたが。
永幡「それもあります。研究室のしょぼいスピーカーとも、全然違いました。
実は、本当は大学でやりたかったんです。金谷川周辺に住んでいる学生さんが来やすいので。あと、やはり福島大学に所属している人間としては、大学でこういうことをやっている、という形にしたいじゃないですか。でも、明日(3月12日)は入試の後期日程なので、教室が使えなくて、困ったなと。辻さん(行政政策学類長)に相談したら、ここを紹介されたんです。椅子も、行政政策学類から一時的にこちらに持ってきているものを使っています。」(冒頭の写真参照)
――最後にひと言、メッセージを。
永幡「自分は研究者なんですけど、さっき言ったようなことについての市民の意識を変えるためには、論文を書くだけでなく、もっと違った形で訴えることが必要だと思っています。それが今回の企画につながっている。
本当は福島県外の人にも聴かせたいんです。こういう今の福島市のような状況にならないためにも。特に聴かせたいのは、経済人や政治家。でも、本当に聴いてほしい人には、なかなか届かないのが、残念です。
それでも、狭いサークルの中で、コミュニケーションを閉じたくない。いろんな回路で、これからも発信を続けていきたいと思っています。」

A Window on Fukushima

Published by
Dominique Balaÿ

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